地獄百景

ある男に狙われています

 記憶力の悪さに定評のある私ではあるが、ここ最近は見た夢をしっかりと記憶できるようになったので、つげ義春を気取って夢日記でも書いてみるか、と思い実践してみようとしたところ、翌日からまったく覚えていられなくなった。わざわざ過去の記事を削除してまで新たに取り組もうと思ったのが間違いだったのかもしれない。なにごとも気負いすぎると裏目に出るものである。

 覚えていた夢のほとんどは洗髪中に排水口へ流れてしまった。抜け落ちた髪の毛と一緒に。だが、幸いにも唯一覚えているものがあるので、それを書くことにする。

 私は新進気鋭の某アイドルグループのMと交際をしていた。どちらから告白したのかはわからない。そこそこ長い付き合いだったようだ。ある日、彼女とともに遊園地へ向かった。園内には客はおらず、寂れた雰囲気だった。メリーゴーランドがむなしく回っていた。私は彼女とともに観覧車に乗り込んだ。ゴンドラの中には大江健三郎と氏の担当編集者がいた。氏はなかなか気さくな方で、我々を快く迎え入れてくれた。そしていろいろなことを教えてくれた。なにを教えてくれたのかは覚えていない。しかし文学の話題は出なかった。円い眼鏡をしていたので大江健三郎だと思い込んでいたが、ただのじじいだった可能性もある。